ADX Consulting(以下、ADXC)では、社内勉強会を定期的に開催しています。多くは技術に関する内容ですが、コンサルタントとしての基礎力を高めるため、コミュニケーションや文章力といったソフトスキルのトレーニングも重視しています。
今回はその一環として開催された「テクニカルライティング勉強会」についてご紹介します。昨年に引き続き2回目の実施となったこの勉強会では、改めて「伝える力」の重要性を全員で再確認しました。
▼第一回目のレポートはこちら
「テクニカルライティング」とは?
テクニカルライティングとは、「技術情報を分かりやすく伝えるための文章技術」です。読む人(=読者)にとって、目的に沿って、正確に、簡潔に伝わることが最も重要です。ADXCでは、これを「モノやコト(概念)を伝えるための説明技術」と位置づけています。
コンサルティング業に携わるうえで、お客様に「伝える」技術は必須です。たとえば、システム開発の打ち合わせで使われた言葉の解釈にズレがあると、後工程でミスが生じ、その修正にかかる時間やコストは決して小さくありません。お客様と接する場面では、常に「正確に伝わる」ことを意識する必要があります
テクニカルライティングの基本を学ぶ
勉強会ではまず、「どのように書くか」以前に、「どう整理するか」という思考の組み立て方から学びました。情報の取捨選択、文章構成、語彙の選び方といった「書く技術」ももちろん重要ですが、最も核となるのは、「読者目線で構造化された情報整理」です。
ISO 9241-11で定義されるユーザビリティの3要素——Effectiveness(有効性)、Efficiency(効率性)、Satisfaction(満足度)——は、テクニカルライティングにおいても基本指針となります。
Effectiveness:曖昧さをなくし、具体的に、誤解なく伝える
Efficiency:構造的・簡潔に。重要な情報を冒頭に
Satisfaction:読み手に配慮したトーンと文体(肯定的な表現、「ですます調」の統一)
加えて、文章を作成する際には「テーマ設定」「見出し作成」「構成チェック」を段階的に行い、文章の可視性と一貫性を高めていきます。
まず、文章の「テーマ」を明確にしましょう。ここでは、「何を伝えたいのか」を深く掘り下げ、メインテーマを決定します。次に、読者の興味を引くようなキャッチーな「見出し」を考えます。この際、読者が内容に興味を持つかどうかを検討することが重要です。テキストを作成する際には、「見出し」を太字にすることで、視認性が向上し、作業効率も上がります。
その後、段落ごとに構成を整理し、文章の骨組みを作ります。構成や内容、分量に不自然な点がないかを確認し、実際の文章を作成します。文章は、簡潔で分かりやすい内容を心がけましょう。これらのステップを細分化することで、「より伝わりやすい文章が書ける」ことを実感できるはずです。
実践で学ぶ「伝わる文章」のつくり方
勉強会では実際の業務文章をサンプルとして、どこが「伝わらない」ポイントかを洗い出し、テクニカルライティングの視点で修正する演習も行いました。
● 用語定義の改善
Before:「見積 見積もり伝票、見積もり作成を指す」
After:「見積 本書記載の“見積”は、商奉行上の“見積伝票”、および事業部ごとにExcelで作成している“見積書”を指す」
→ 主語・述語を明確にし、5W1Hを意識して具体性を持たせる。
● コメント文の明確化
Before:「考えております」「コメントをいただけるとありがたいです」
After:「共有させていただきます」「要件定義を進める予定です」
→ 積極的かつ明確な意図が伝わる文に変更。依頼する場合、「誰にどういう役割・観点で何をして欲しいのか」を意識する。
● 機能紹介の整理
Before:一文が長く、情報過多で読みづらい文章
After:一文一義に分割し、情報の順序も整理
→ 文章構造を見直すことで、読者の理解を助ける。
このほかにも、文中で「重要」という表現が重複していた例や、修飾語と被修飾語の距離が遠かった議事録など、様々なケースに対して「より伝わる書き方」を実践的に学びました。
意見を取り入れて“共通ルール”を策定
質疑応答では、「代名詞の扱い」について活発な議論が交わされました。たとえば、「弊社」や「貴社」は、立場によって意味が変わるため、社内では表現を統一する必要があるという意見が出ました。
その結果、「ADXC」「○○株式会社△△様」「担当者の名字で表記」など、共通ルールが定められました。こうした合意形成を積み重ねていくことが、組織全体のライティングレベルを底上げすることにつながります。
テクニカルライティングの考え方は、ドキュメンテーション以外でも、日々のテキストコミュニケーションにも有効です。テクニカルライティングが目指す重要なポイントは以下3点にまとめられます。
・読み手に対して、簡潔に分かりやすく伝える
・読み手に対して、正確に正しく伝える
・書き方を揃えることで、簡単に・楽に・速く書ける
テクニカルライティングがもたらすもの
今回の勉強会を通じて、「伝えること」と「伝わること」の大切さを、改めて実感しました。複雑な技術情報を正しく、わかりやすく伝えるには、まず書き手自身が内容を深く理解している必要があります。そして、読み手の立場に立って言葉を選ぶことが、信頼や効率、ひいてはプロジェクト成功へとつながるのです。
「伝える力」は、すべてのビジネスパーソンにとって必須のスキルです。わかりやすさ、伝わりやすさを意識する習慣を持つことが、日々の業務を変えることにつながると学びました。